減塩することで、食塩の過剰摂取によって生じうる健康へのリスクを下げることができます。リスクには、高血圧、腎機能の低下、骨粗しょう症、胃がんなどが挙げられ、中でも高血圧によって動脈硬化が進行すると、脳卒中や心不全など命に関わる病気を引きおこします。
こうしたリスクは生活の質を下げるだけでなく、要介護状態をまねく恐れもあります。脳卒中は半身麻痺や言語障害などの後遺症が残ることもあり、要介護状態になる原因の中で2番目に多いのです1)。また、骨粗しょう症が進行することで転倒などの軽い力で骨折してしまうリスクが高まります。転倒・骨折は要介護状態になる原因の中で4番目に多く、脳卒中と合わせると要介護原因の約30%にもなります。
減塩は、こうした病気や要介護のリスクを遠ざけることが期待できるのです。
世界保健機関(WHO)は成人の食塩摂取量として5.0g/日未満を推奨していますが2)、この摂取量に抑えることは私たち日本人にとって簡単ではありません。平成28年の調査によると、20歳以上の日本人の食塩平均摂取量は、男性で10.8g/日、女性で9.2g/日でした3)。これは、WHOの目標値の約2倍量を摂取していることになります。
伝統的な日本食には醤油や味噌など塩分を多く含む調味料が使われるため、日本は諸外国と比べて塩分摂取量が多い傾向があります。これを踏まえ、厚生労働省は、日本人にとって現実的で継続しやすい減塩目標量として、男性で7.5g/日、女性で6.5g/日を設定しています4)。
ちなみに、食塩は体内で分解されてナトリウムのかたちで吸収され、体液の濃度調節、筋肉の正常な動作、神経の情報伝達、血圧の調節などに使われます。1日に必要な量は、ナトリウムとして0.2~0.5g(食塩に換算して0.5〜1.3g)とされています。
男性 | 女性 | |
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平均摂取量 3) | 10.8g/日 | 9.2g/日 |
目標値(厚生労働省)4)
※日本人の食事摂取基準(2020年度版)に基づく男性15歳以上、女性12歳以上の目標量 |
7.5g/日 | 6.5g/日 |
目標値(WHO)2) | 5.0g/日 | 5.0g/日 |
食塩の摂取量は食生活に大きく左右されるため、地域性があります。あなたのお住まいの地域の摂取量はどうでしょうか?
全国エリア別 20歳以上の食塩摂取量平均(1人1日当たり) 厚生労働省 “平成28年 国民健康・栄養調査” より作成帝京大学福岡医療技術学部 医療技術学科長/教授(内科学)
国立循環器病研究センター(高血圧・腎臓科) 客員部長
1974年九州大学医学部卒業、第2内科入局、1978年福岡県立九州歯科大学内科 助手、1981年九州大学医学部第2内科 助手、1982年米国クリーブランドクリニック心血管研究部門 研究員、1985年国立循環器病センター内科高血圧腎臓部門 医員、2001年 同部門 部長、2010年独立行政法人国立循環器病研究センター 生活習慣病部門長・同 高血圧・腎臓科部長、2015年帝京大学福岡医療技術学部 医療技術学科長/教授(内科学)。
専門は、高血圧、腎臓病、循環器病、生活習慣病。
日本高血圧学会(名誉会員,監事)、日本未病システム学会(理事)、日本腎臓学会(功労会員)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構専門委員 (2004-)、厚生労働省「日本人の食事摂取基準2015年版」策定検討会構成員など多数を務める。
厚生労働省 (2016) “平成28年 国民生活基礎調査の概況”
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html
厚生労働省 (2016) “平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要”
厚生労働省 “「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書”